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紙の月

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ただ好きで、ただ会いたいだけだった―――わかば銀行の支店から一億円が横領された。容疑者は、梅澤梨花四十一歳。二十五歳で結婚し専業主婦になったが、子どもには恵まれず、銀行でパート勤めを始めた。真面目な働きぶりで契約社員になった梨花。そんなある日、顧客の孫である大学生の光太に出会うのだった・・・・・・。あまりにもスリリングで、狂おしいまでに切実な、傑作長篇小説。各紙誌でも大絶賛された、第二十五回柴田錬三郎賞受賞作、待望の文庫化。(アマゾンの紹介文より)



角田光代の小説でこれがいちばん好きだ。1億円の横領が発覚し、梨花はタイのチェンマイに逃げる。小説はそこから始まる。いきなり引き込まれる。初めて読んだとき、いつか映画にならないだろうか、もし映画になるなら、主人公の梅澤梨花を演じるのはだれがいいかと考え、でも誰がいいのだかよくわからなかった。そうしたら、今年の1月、NHKがドラマ化して、梨花を演じたのは原田知世。ほぉそうきましたか。でも観てみたら、原田知世あまりいいと思わなかった。原田知世がそういうことするだろうか。いや原田知世がするわけじゃないんだけど・・・。ほかにいないのか適材は。
そんなこんなで秋になり、この小説が文庫になったと最近知り、いままでは図書館で単行本を借りていたのだけれど、文庫本を買うことにした。届いてみたら、カバーにどーんと宮沢りえの写真。それを見て映画化されたことを知った。こんどの梨花は宮沢りえ。うーむ。































人がひとり、世界から姿を消すことなんてかんたんなのではないか。
タイのチェンマイに着いて数日後、梅澤梨花は漠然と考えるようになった。
姿を消す、といっても死ぬのではない、完璧に行方をくらます、ということだ。そんなことは無理だろうとずっと思っていた。思いながらこの町までやってきた。
バンコク中心街ほどの発展も喧騒もなく、町自体も小規模だったが、観光客は多く、長旅の末になんとなく居着いてしまった風情の外国人の姿も多く見られた。林立するホテルとゲストハウス、レストランや土産物屋に挟まれるようにして、町なかにも寺があった。夜には巨大な縁日のようなバザールが開かれ、物売りも観光客も、弾けるような光のなかを惚けたような顔つきで歩きまわっている。そんななかを、観光するでも買いものをするでもなく、梨花はただ歩いた。(角田光代『紙の月』プロローグより)

by hitsujiya-azumino | 2014-09-27 20:59 | 本を読む